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鍛冶工房「Metalsmith iiji」
千葉県佐倉市出身 / イギリスの大学にて金属工芸を学んだのち、現地鍛冶工房にて修行。千葉県内を中心に公共オブジェや看板、什器等を製作する。
八千代市内の住宅街に突如現れる廃都電。その下層にMetalsmith iijiの鍛冶工房はある。 薄暗い工房はまるで映画や物語にでも出てきそうな雰囲気だ。 決して大きな工房ではないが鍛冶をするには必要十分。そんな場所で伊藤氏はこの町の鍛冶職人として活躍している。 学生時代、伊藤氏はジュエリーが好きでジュエリーデザインを学びに単身渡英するも、カリキュラムで鍛冶に出会い、イギリスの町じゅうにある鍛冶作品に惹かれ、卒業後は小さな村の鍛冶職人に弟子入り、と同じ金属加工でも鍛冶というジャンルに傾倒した。 修業時代の三年間を“サバイバル”と表現する。「無給を条件に修行させてもらっていたので、生きるために野ウサギだって食べていました」と笑って話すあたりがその本気度を感じさせる。 三年間のサバイバル修行生活を終えた2011年、師匠から受け継いだ道具を大量に日本に持ち帰り、結婚、出産を経て、育児をこなしながら2017年Metalsmith iijiは誕生した。
「自分の目や手が届く範囲での仕事に誇りを持っています」 伊藤氏はなぜそこまで地元・地域にこだわるのか。 もちろん生まれ育った地元への愛着もある。しかしそれよりも大きいのは師匠の存在だ。 イギリスの師匠は村にとって欠かせない鍛冶屋であった。村には師匠の作った温かい鉄の作品がいたるところに見つかる。そして工房には製作や修理の相談をしに毎日のように村の人が訪れる。そんな師匠のように小さなコミュニティに根付いた鍛冶屋文化が素敵だなという考えから、伊藤氏は自身の目や手が届く市内施設や店舗のオブジェや什器を中心に製作している。
鉄の魅力について聞くと、人の手が加わることで温かみを持たせることができるところだという。鉄という無機質な素材に温もりを与える仕事は、まるで自分が魔法使いにでもなったかのような感覚になれる。 製作には伝統的な鍛冶のリベット技法と、それよりも新しい技術である溶接、どちらの接合法もよいところがあるので必要に応じて使い分けている。素材も鉄だけにこだわらず、彫金の経験から真鍮なども作品に使用する。そういったフレキシブルさがBlacksmith(=鉄鍛冶屋)ではなく” Metal ”smithという屋号にも表れているように感じる。
鉄は自身の寿命を優に超える時間残すことが可能だ。 自身の足跡をこの町に残し、母の作った作品だ、と子どもが気付いてくれたら最高にうれしいと語る。 Metalsmith iijiは今日もこの町で、時間を超える鉄を叩く。